自己破産をすると借金がゼロになる。と考えている人は非常に多いことだと思いますが、正式には、自己破産だけでは借金がゼロになることは無く「免責」が出ることで借金の返済義務が免除されることになります。
ただし、自己破産をすれば必ず「免責」の許可が得られる訳ではありません。
これには、「免責不許可事由に該当しない債務であること」や「自己破産で免責できない非免責債権が含まれていないこと」が条件になります。
では、「免責不許可事由」や「非免責債権」とは、一体どのような制度なのか?今回は、自己破産の免責制度についてまとめて解説を行いたいと思います。
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自己破産における免責とは
自己破産における「免責」とは、借金などの債務の返済義務を免除することを指しております。
従って、「自己破産をしたら借金がゼロになる」「自己破産をすると借金が帳消しになる」などの言い回しは、厳密には誤りであり「免責」が得られなければ自己破産をしても返済義務が無くならないのです。
免責の許可は裁判所から「免責決定」を得る必要がありますが、その際に「免責不許可事由」に該当する場合は、免責が許可されず自己破産をしても返済義務が無くならないのです。
加えて、自己破産をしても免責することが出来ない債務である「非免責債権」の場合は、裁判所から免責決定が出ても返済の必要があります。
このように、自己破産の免責は「免責不許可事由」と「非免責債権」の2つをしっかりと理解しておくことが重要になります。
免責制度の趣旨
自己破産で免責許可が出ると、債務者は返済義務が無くなりますのでメリットがある。と言えますが、債権者は借金を踏み倒されたことになりますのでデメリットしかありません。
ではなぜ、免責制度があるのか?その理由についてお伝えしたいと思います。
免責制度が無かった場合、債務者は借金を返済するために一生働き続け返済を行う必要があります。給与の大半は借金の返済へと消えて行き、まさに借金を返済するためだけに生きている。と言っても過言ではありません。
当然、債務者は貧困状態となり本人だけでなく、子供も教育の機会等を失うリスクがあります。
このような状態を放置してしまうと、日本社会に一定の貧困層が生まれてしまい債務者だけでなく国全体に影響を及ぼす可能性があります。
そこで、人間らしい生活を営む機会を与え社会復帰してもらうことが免責制度の趣旨となります。
自己破産で免責許可が出される条件
自己破産で免責を得る条件には「支払不能な状態であること」「免責不許可事由に該当しないこと」の2点が挙げられます。そして、この2つを裁判所に認めてもらうために「破産手続」と「免責許可手続」を行う必要があります。
手続き | 詳細 |
破産手続 | 申立人の財産を調査し借金が返済できない状態にあるか確認する手続き |
免責許可手続 | 借金をした理由や返済が出来なくなった経緯を調査し、借金の支払い義務を免除しても良いか確認する手続き |
また、免責許可が出た場合でも「非免責債権」が含まれる場合は、免責許可後も返済義務が残り続けることになりますので注意してください。
「免責不許可事由」と「非免責債権」の詳しい解説は後述させていただきます。
また、自己破産の条件を詳しく確認したい人は「自己破産の条件とは?免責許可を得るために抑えておくべき知識を解説」をご参照ください。
自己破産で免責許可が出るまでの流れと期間
参照:自己破産の手続き|免責許可までの流れと期間を7つの手順で解説
自己破産には2つの種類があり「同時廃止」と「管財事件」によって、免責許可までの流れと期間が変動することになります。
自己破産の種類 | 概要 | 期間 |
同時廃止 | 同時廃止とは、自己破産の申立人に一定以上の財産がない場合の手続きとなります。 | 3ヶ月〜6ヶ月 |
管財事件 | 管財事件とは、自己破産の申立人に一定以上の財産がある場合の手続きとなります。 | 6ヶ月〜12ヶ月 |
自己破産をする9割の人は「同時廃止」によって自己破産をしております。この理由に、自己破産をする多くの人は、経済的に困窮しており手持ちの財産が”ほぼない”という人が非常に多いのです。
従って、処分する財産が無い分、手続きも簡単となり、弁護士に依頼してから免責許可の決定まで3ヶ月程度で終了することもあります。遅い場合でも、4ヶ月〜6ヶ月以内には自己破産の手続きは完了することになります。
一方、「管財事件」の場合は、裁判所から破産管財人が派遣され財産の調査や換価(財産を現金化させること)の手続きなどを行うことになります。
資産状況によって期間は変動しますが、免責許可の決定までに早くても6ヶ月は必要となり、中には1年以上も掛かるケースがあります。
その際、弁護士に依頼している場合のみ「少額管財」という手続きを採用することが出来ます。少額管財は管財事件よりも期間が短く(3ヶ月〜6ヶ月程度)費用が安い。という特徴があります。
自己破産をしても免責できない免責不許可事由とは?
自己破産で免責を得るためには、免責許可手続で「免責不許可事由に該当しない」と裁判所に認めてもらう必要があります。
免責不許可事由とは、免責が認めらない原因となる事情のことを指しており、ギャンブルなどの浪費で出来た借金や財産隠しなどをした場合に免責不許可事由に該当してしまいます。
免責不許可事由に該当すると「自己破産は出来たが借金が無くなっていない」という最悪な結果を招くこともありますので十分に注意しましょう。
免責不許可事由に該当する例は、破産法252条に記載されておりますのでご参照ください。
第二百五十二条裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。一 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。二 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。三 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。四 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。五 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。六 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。七 虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。八 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。九 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。十 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日ロ 民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日ハ 民事再生法第二百三十五条第一項(同法第二百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日十一 第四十条第一項第一号、第四十一条又は第二百五十条第二項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。2 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。3 裁判所は、免責許可の決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者及び破産管財人に、その決定の主文を記載した書面を破産債権者に、それぞれ送達しなければならない。この場合において、裁判書の送達については、第十条第三項本文の規定は、適用しない。4 裁判所は、免責不許可の決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。5 免責許可の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。6 前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。7 免責許可の決定は、確定しなければその効力を生じない。参照:破産法第二百五十二条
免責不許可事由も裁量免責によって借金ゼロ
先ほど、ギャンブルなどの浪費は「免責不許可事由」に該当し免責が認められない。とお伝えさせて頂きましたが、裁判官の判断よって免責を認める「裁量免責」という制度がありますので実際は免責されるケースが多いのです。
- 借金が出来た理由や返済が出来ない事への深い反省を気持ちで示す
- 生活を立て直すことへの強い意欲を示す
「気持ち重視なのか?」と思われてしまいますが、そもそも債務整理は借金を返済出来なくなった人を救済し再生させることを目的にした制度になりますので、しっかりと反省し生活を立て直す意欲があれば認める価値は十分に高い。という訳です。
従って、裁判官との免責審尋で誠実に対応することが出来ればギャンブルで出来た借金も免責できる可能性が高いと言えるでしょう。
自己破産で免責許可が出ても借金が免除できない非免責債権とは
自己破産をすることで借金は免責(免除)される訳ですが、全ての債務が無くなる訳ではありません。
その理由に、「非免責債権」と呼ばれる免責が出来ない債務が含まれている事があるためです。基本的には、税金や年金などの公的なものや損害賠償請求権などが該当することになります。
非免責債権に該当する条件は、破産法第253条に明記されておりますので合わせてご参照ください。
第二百五十三条免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。一 租税等の請求権二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)四 次に掲げる義務に係る請求権イ 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務ロ 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務ハ 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務ニ 民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)七 罰金等の請求権2 免責許可の決定は、破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。3 免責許可の決定が確定した場合において、破産債権者表があるときは、裁判所書記官は、これに免責許可の決定が確定した旨を記載しなければならない。引用:破産法第二百五十三条
まとめ
自己破産の免責制度について解説を行いました。
実際のところ、自己破産を申請した96.44%の人が免責許可が出ています。そのため、自己破産の条件に該当し、正しい手続きを踏めば、免責許可を得ることは難しくはないと言えるでしょう。
ただし、自己破産の手続き自体は、法的な知識と20種類以上の書類を準備する必要がありますので弁護士の力は必要不可欠と言えます。
その際、全国対応の自己破産に強い弁護士事務所を「2019年版|自己破産の評判が良いおすすめ弁護士事務所を5社まで厳選」にてまとめておりますのでご参照ください。
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