「自分は自己破産が出来るのだろうか?」と疑問に感じている人も多いことだと思います。
日本弁護士連合会の2014年の調査である「破産事件及び個人再生事件記録調査」によると、自己破産の申請した96.44%の人が免責許可(借金の免除)を得ている。という結果が出ています。
そのため、自己破産の条件に該当し、正しい手続きを踏めば、免責許可を得ることは難しくはないと言えるでしょう。とは言え、そもそも、自己破産の条件に該当しなければ免責許可は得られません。
そこで今回は、自己破産の条件について解説を行います。
Contents
自己破産が認められる条件
自己破産で免責を得るためには「支払不能な状態であること」「免責不許可事由に該当しないこと」の2点が挙げられます。そして、この2つを裁判所に認めてもらうために「破産手続」と「免責許可手続」を行う必要があります。
手続き | 詳細 |
破産手続 | 申立人の財産を調査し借金が返済できない状態にあるか確認する手続き |
免責許可手続 | 借金をした理由や返済が出来なくなった経緯を調査し、借金の支払い義務を免除しても良いか確認する手続き |
それでは、「支払不能な状態であること」、「免責不許可事由に該当しないこと」とは、実際にどのような意味なのか詳細を解説したいと思います。
支払不能な状態であること
支払不能かどうかは、債務者本人が決めるのではなく裁判所が決定することになります。従って、裁判所は以下の項目などを確認し債務者が支払不能な状態なのかを判断することになります。
- 借金総額と内容
- 収入や資産の状況と内容
- 年齢や家族構成
- 毎月の支出(生活費)など
端的言えば、「仕事をしておらず財産も有していない場合」や「収入が低く借金を返済するための十分な財産も有していない場合」などが「支払い不能な状態」に該当することになります。
従って、「借金総額がいくら以上であれば自己破産が出来る」という基準ではなく、あくまで、債務者の支払い能力と借金額によって「支払い不能な状態」かは決まると言えます。
1つの目安としては、3年以内に借金を完済出来ない場合は「支払い不能な状態である」と認められる傾向にあります。
免責不許可事由に該当しないこと
破産手続で支払い不能な状態である。と裁判所に認めてもらえたとしても、それだけでは自己破産は成立しません。次に、免責許可手続で「免責不許可事由に該当しない」と裁判所に認めてもらう必要があります。
免責不許可事由とは、免責が認めらない原因となる事情のことを指しており、ギャンブルなどの浪費で出来た借金や財産隠しなどをした場合に免責不許可事由に該当してしまいます。
免責不許可事由に該当すると「自己破産は出来たが借金が無くなっていない」という最悪な結果を招くこともありますので十分に注意しましょう。
免責不許可事由に該当する例は、破産法252条に記載されておりますのでご参照ください。
第二百五十二条裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。一 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。二 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。三 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。四 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。五 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。六 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。七 虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。八 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。九 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。十 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日ロ 民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日ハ 民事再生法第二百三十五条第一項(同法第二百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日十一 第四十条第一項第一号、第四十一条又は第二百五十条第二項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。2 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。3 裁判所は、免責許可の決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者及び破産管財人に、その決定の主文を記載した書面を破産債権者に、それぞれ送達しなければならない。この場合において、裁判書の送達については、第十条第三項本文の規定は、適用しない。4 裁判所は、免責不許可の決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。5 免責許可の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。6 前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。7 免責許可の決定は、確定しなければその効力を生じない。参照:破産法第二百五十二条
ギャンブルなどの免責不許可事由も裁量免責が認められる
先ほど、ギャンブルなどの浪費は「免責不許可事由」に該当し免責が認められない。とお伝えさせて頂きましたが、裁判官の判断よって免責を認める「裁量免責」という制度がありますので実際は免責されるケースが多いのです。
- 借金が出来た理由や返済が出来ない事への深い反省を気持ちで示す
- 生活を立て直すことへの強い意欲を示す
「気持ち重視なのか?」と思われてしまいますが、そもそも債務整理は借金を返済出来なくなった人を救済し再生させることを目的にした制度になりますので、しっかりと反省し生活を立て直す意欲があれば認める価値は十分に高い。という訳です。
従って、裁判官との免責審尋で誠実に対応することが出来ればギャンブルで出来た借金も免責できる可能性が高いと言えるでしょう。
特定の債権者に返済する偏頗弁済(へんぱべんさい)に注意!
「自己破産前に親友から借りたお金だけは返したい」
一見すると、返済意欲も高く善意な気持ちであることから問題無いように思えますが、特定の債権者のみに返済する行為は「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と呼ばれ免責不許可事由に該当しますので注意が必要です。
そのため、どうしても特定の債権者に返済をしたい場合は、免責許可が出た後に個別に返済を行うようにする方が良いでしょう。(免責許可後であれば個別返済を行なっても免責不許可事由に該当しません)
免責対象外となる非免責債権とは?
自己破産をすることで借金は免責(免除)される訳ですが、全ての債務が無くなる訳ではありません。
その理由に、「非免責債権」と呼ばれる免責が出来ない債務が含まれている事があるためです。基本的には、税金や年金などの公的なものや損害賠償請求権などが該当することになります。
非免責債権に該当する条件は、破産法第253条に明記されておりますので合わせてご参照ください。
第二百五十三条免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。一 租税等の請求権二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)四 次に掲げる義務に係る請求権イ 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務ロ 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務ハ 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務ニ 民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)七 罰金等の請求権2 免責許可の決定は、破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。3 免責許可の決定が確定した場合において、破産債権者表があるときは、裁判所書記官は、これに免責許可の決定が確定した旨を記載しなければならない。引用:破産法第二百五十三条
自己破産の条件に関する疑問を一問一答で解説
ここまで、自己破産の条件について解説を行いました。ここからは、自己破産で免責を得るための条件について、気になる疑問を一問一答で解説したいと思います。
Q1.生活保護受給者ですが自己破産は可能ですか?
A.生活保護受給者でも自己破産は可能です。むしろ、免責許可は降りやすいでしょう。
自己破産の条件にある「返済不能な状態であること」「免責不許可事由に該当しないこと」の2点を満たしていれば自己破産は可能になります。
更に、生活保護受給者の場合は経済的に困窮していることから、一般の会社員よりも「返済不能な状態である」という基準が低くなりますので免責許可は得やすいと言えるでしょう。
詳しくは「自己破産と生活保護の関係とは?事前に知っておくべき5つの知識を解説」にて自己破産と生活保護に関して解説をしておりますのでご参照ください。
Q2.奨学金が払えないのですが自己破産は可能ですか?
A.奨学金も自己破産することは可能です。ただし、奨学金の返済負担を軽減する制度の活用から検討しましょう。
奨学金破産という言葉があるように、奨学金を自己破産することは可能になります。ただし、自己破産は、ブラックリストに登録されることや財産の大半を没収されてしまうことから必ずしも最適な選択とは言えないケースもあります。
その際、奨学金には「減額返還制度」や「返還期限猶予制度」など、支払いの負担を軽減する制度や支払いを猶予してもらえる制度がありますので、自己破産の前に検討するようにしましょう。
自己破産と奨学金に関しては「自己破産と奨学金|奨学金破産のデメリットと返済が難しい場合の対処法」にて詳しく解説をしておりますのでご参照ください。
Q3.病気や怪我で仕事が出来ないのですが自己破産は可能ですか?
A.病気や怪我で働けない場合も自己破産は可能になります。
病気や怪我で仕事が出来ず収入が得られないような場合も自己破産で免責許可を得ることが出来ます。その際、生活費や治療費を工面するために出来た借金は浪費ではありませんので、免責不許可事由に該当することもありません。
Q4.公共料金の滞納は免責できますか?
A.公共料金(電気・ガス・水道)の滞納分も自己破産で免責することが可能です。
公共料金の滞納分は非免責債権に該当しませんので、免責許可を得ることが可能になります。当然、免責を得られれば支払う義務は無くなります。
ただし、水道料金の一部である「下水道料金」については、地方自治体が管轄しているため非免責債権に該当することになり自己破産が出来ません。
Q5.住宅ローンも免責対象になりますか?保証人への影響は?
A.住宅ローンも免責対象となり自宅は手放すことになります。また、住宅ローンの残債は保証人へ請求されます。
結論、自己破産をすると自宅は手放すことになります。そして、住宅ローンが残った状態で自己破産をすると「連帯保証人」や「連帯債務者」に住宅ローン残高の請求がされることになります。
もし、どうしても自宅を手放したくない。保証人に迷惑を掛けたくない。という人は、個人再生を検討するのも1つの手です。
個人再生は、借金を免責(免除)することは出来ませんが、自宅を手放さずに大幅に借金を減額することができる債務整理の一種となります。
債務額が5000万円未満であり、安定した収入が確保できていることが条件になりますが、該当している場合は検討することをおすすめします。
個人再生の詳しい解説は以下の関連記事をご参照ください。
まとめ
自己破産の条件について解説を行いました。
自己破産の条件は「支払い不能な状態であること」「免責不許可事由に該当しないこと」の2点を満たしていれば免責許可を得ることが出来ます。
ただし、自己破産の手続き自体は、法的な知識と20種類以上の書類を準備する必要がありますので弁護士の力は必要不可欠と言えます。
その際、全国対応の自己破産に強い弁護士事務所を「2019年版|自己破産の評判が良いおすすめ弁護士事務所を5社まで厳選」にてまとめておりますのでご参照ください。
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